囲形埴輪の新展開(No.111)

更新日:2013年12月20日

狼塚古墳の囲形埴輪

古代からのメッセージ99号で狼塚古墳から出土した囲形埴輪を紹介しました。今回はこの埴輪に関連した興味深い見解が発表されましたので、ご紹介しようと思います。
発表されたのは奈良国立文化財研究所の黒崎直さんです。その論文は「古墳時代のカワヤとウブヤ」というタイトルで『考古学研究』第45巻4号に掲載されました。
この論文で黒崎さんは、まずこれまで浄水施設と報告されてきた奈良県纏向(まきむく)遺跡や南郷大東遺跡などの遺構について再検討しました。特に、この遺構の中心となる木槽樋(もくそうひ)に続く溝の土の中に大量の寄生虫卵が含まれていた事実に注目したのです。
寄生虫卵が大量に見つかるということは、人糞が堆積した証明でもあり、ここが水洗トイレだったとするのです。
また、このまわりからは柱穴がいくつも見つかっていて、簡易な覆屋(おおいや)が建っていたことが報告されています。次には、この水洗トイレ付きの建物の性格を追及されています。
黒崎さんは、この建物が集落の外れにあることに注目し、民俗例も検討され、ここがウブヤとして使われたのではないかと結論づけられています。
さらに、このウブヤは、まわりから祭りの道具類が出土するところから、一般の人々が使うものではなく、首長層に連なる妊産婦がこもって出産したのだろうとされます。それは、古墳にこの施設を写し取った囲形埴輪の存在からも傍証できると主張されています。つまり、囲形埴輪は古墳に葬られた、あるいは跡を継いだ新しい首長の誕生の光景を埴輪にして古墳に持ち込んだのだろうとするのです。
黒崎さんが主張するように、纏向遺跡や南郷大東遺跡などで見つかった木槽樋を伴う遺構が、水洗トイレ付きのウブヤだとすると、これを模した囲形埴輪もウブヤ形埴輪とでも改めなければならないかもしれません。
ただ、こうした遺構の発見例はまだ少なく、土壌の寄生虫卵分析が実施されたものはさらに少数なのです。桜井市教育委員会の萩原儀正さんは、この遺構が廃棄される過程で寄生虫卵が混入した可能性を指摘し、これはあくまで浄水を得る祭りの施設だと主張されています。
この遺構ははたして上水道なのか下水道なのか、決着をみる日が楽しみです。皆さんはどう解釈されるでしょうか。

写真:狼塚古墳の囲形埴輪

『広報ふじいでら』第361号 1999年6月号より

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