縄紋人の平均寿命は?(No.59)

更新日:2013年12月18日

縄紋人の竪穴住居での生活風景

市民文化財講座に参加されている初老のかたからのご質問です。
「今、日本は世界一の長寿を誇っていますが、縄紋時代の平均寿命はどれくらいだったのでしょうか」
これまた、難しい問題です。ご指摘のように日本人は、女性が82.23歳、男性が76.09歳(平成4年統計)と大変な長寿国となっています。ただ、日本人の平均寿命が50歳を超えたのは戦後間もない昭和22年のことであり、大正時代には、42.3歳に過ぎなかったのです。江戸時代には、正確な統計がないのではっきりしないのですが、せいぜい30歳程度だったでしょう。
では、縄紋時代はどうだったでしょう。当然、発掘された人骨から死亡年齢を推定し、平均死亡年齢を計算する方法が考えられます。しかし、乳幼児の人骨は残りにくく、乳幼児の死亡率はほとんど分からないのです。したがって、「15歳時平均余命」(15歳に達した人があと何年生き延びられたか)を用いることにします。
これによると、縄紋人の15歳平均余命は、16から20年と推定されます。これを根拠に平均寿命を推測すると、20歳に達するかどうかという状況だったのです。
平均寿命がこれほど短かったことは、多くの縄紋人が若くして、病気や事故で亡くなっていたことを意味しています。現代の死亡原因の代表は、癌、心疾患、脳血管障害といわれています。縄紋時代の人骨から死亡原因を探ることは、至難の業ですが、福島県三貫地貝塚から出土した30歳前後の男性の頭がい骨には、悪性腫瘍による病変が観察されたことが報告されています。これは、癌の症例が確認された最も古い貴重なものですが、現在のところ、ただの一例に過ぎないのです。縄紋人に成人病が少なかったのは、彼らが健康だったのではなく、成人病年齢に達するまでに亡くなるケースが多かったことを意味すると考えられます。
古病理学の発展にともない、注目された貴重な例をもう一つ紹介しておきましょう。北海道の入江貝塚から出土した20歳前後の人骨です。この人骨は全身の骨が細く委縮していて、生前ほとんど筋肉がついていなかったことが観察されました。古病理的研究によって、彼(彼女)は小児期にポリオを患い、その後寝たきりの状態になったと推測されたのです。
注目したいのは、腕と脚に重度の麻痺をきたした少年(少女)が、10数年も寝たきりの生活を送っていたのです。周囲の手厚い介護なくして考えられない事実です。厳しい生存条件にあった縄紋人の豊かな精神世界の一端をみた思いがします。

イラスト:縄紋人の竪穴住居での生活風景

『広報ふじいでら』第309号 1995年2月号より

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