古代寺院の姿1(No.80)

更新日:2013年12月18日

古代の葛井寺の復元図

古代の葛井寺を想定したパネルを前に不思議そうに見ておられたかたがいました。何度も首をかしげられるので気になって声をかけました。「何か気になりますか」「ここの館の方ですか」「そうじゃないですが、この下絵をつくった者です」「そうですか、いいところでお会いできました。この絵は今の観音さんとぜんぜん違いますね。発掘調査か何かでこんな姿だったと分かったのですか」私には厳しいご質問です。
というのも、この絵は、古代の葛井寺とその周辺の姿を想像して描きました。ただ、今のところ、古代の伽藍配置やその規模、そして、周辺の環境などについて、それほど正確なデータがあるわけではありません。ですから、かなり、無理をして描いています。なぜ、そこまでして絵にしたかという、言い訳を聞いてくださいますか。
古いお寺というと、奈良や京都の大寺院を想い浮かべるかたが多いと思います。くすんだ木肌色の太い柱、黒い瓦葺きの屋根、薄暗い空間に置かれた漆黒の仏像。こういった古拙の美と表現されるような要素が古代寺院のイメージの基礎にあるのではないでしょうか。しかし、こういったお寺の姿は千年を超える時間の経過と日本人の美意識の変化がもたらせたものなのです。
では、できあがったばかりの古代寺院の姿はどうだったのでしょう。少し年配のかたならご記憶があるかもしれませんが、奈良薬師寺の西塔を再建するにあたって論争がありました。ご存じのように薬師寺は東西に並んだ2基の塔が、その伽藍を特徴づけています。東塔は創建当時の姿を今に伝えていますが、西塔は焼けて失われていました。問題は西塔の再建にあたって東塔のように古拙の色調に仕上げるのか、あるいは創建時の姿に戻して建設するのかの論争だったのです。創建時の姿とは、朱塗りの柱、白壁、銀色に輝く瓦屋根、金色の飾り金具といった色合いなのです。一言でいえば、非常に派手な建築物なのです。東西の塔がアンバランスになるという主張が押しきられ、西塔は創建時のきらびやかな姿に再現されました。
薬師寺では、その後も主要な建物を創建時の姿に復元する整備事業が進められ、今では白鳳時代にタイムスリップしたかのような鮮やかな古代寺院の姿を見ることができます。
つまり、この絵では、古代寺院とは、現代のお寺とかなり外観のイメージが異なる存在だったことを強調したかったのです。

イラスト:古代の葛井寺の復元図

『広報ふじいでら』第330号 1996年11月号より

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