石棺の蓋を開ける(No.28)

更新日:2013年12月19日

出土した遺物(2)巴形銅器(30~33)、櫛(34)、銅製矢はず(35~38)、銅製弓はず(39)、刀装具片(40)

翌日は昨夜半から雨が降り続いていたので、作業を中止しました。翌々日は、どんよりしていましたが、雨は上がり、作業ができそうでした。しかし、ちょうどエンドウ豆の収穫時期と重なってきたので、ボランティアの人数が心配になってきました。その朝、城山のてっぺんに集合した村人はBさんと、いまやBさんの右腕として活躍するC君を含めて7人でした。どうにか今日の作業を進めることができそうです。
突起のついた蓋石の重量は、石の部屋の天井を覆っていた大石の、少なく見ても2倍はありそうでした。縄掛けはより慎重に行いました。とにかくバランスを取ることが第一なのです。Bさんの指示で引き手の腕に力が入り、蓋石は5センチほど持ち上がりました。Bさんはやぐらの根元の安定やロープの張り具合に、素早く目を走らせました。「どうやら、いけそうや。いったんゆっくり下ろしてくれ」第一関門は通過です。緊張の解けた村人の口から、期せずして「ふうっ」と大きな息が漏れました。
蓋石の移動は、午後3時過ぎにはほぼ完了して、4枚の巨大な板石に囲まれた部屋が目の前に現れました。Bさんはひそかに宝物でいっぱいになっている、内部の絵柄を想像していたのです。しかし、現実の内部は半ば泥土に埋まっていて、ざっと見たかぎり、宝物は見当たりませんでした。
Bさんの落胆は、作業に当たっていた全員の、共通した感情でもあったのです。気の早いC君は「おっちゃん、もうやめて畑仕事に戻ろうや」と言い出しました。Bさんの気持ちも作業をやめるほうに大きく傾いていました。ただ、泥土の間からわずかに顔をのぞかせている、鉄サビやピンク色の斑点が気になっていたのです。
「ここまで来たんやから、底まで調べようや」Bさんの提案に、一同は気を取り直して作業を続けることにしました。「これからは細かい仕事になるよって、明日からにせえへんか。今日は皆も疲れてるよって。道具もあれへんし」長老格のHさんの意見を入れて、今日の作業を終えることにしました。
城山を下る村人の後姿には、大きな夢がしぼんでしまった疲労感を見て取ることができました。最後にBさんとC君が残されました。「おっちゃん、掘ったら何か出るかな」C君の語尾は否定的な響きを含んでいました。「出るぞ。よう見てみ、あっこのサビは刀やで」Bさんの指先にC君は目を凝らしました。

図:出土した遺物(2)
巴形銅器(30~33)、櫛(34)、銅製矢はず(35~38)、銅製弓はず(39)、刀装具片(40)(藤井利章「津堂城山古墳の研究」『藤井寺市史紀要』第三集1982年より)

『広報ふじいでら』第278号 1992年7月号より

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