モデルはハクチョウか(No.36)

更新日:2013年12月19日

三体の水鳥形埴輪

水鳥形埴輪のことで、どうしても触れておかなければならないことに「白鳥伝説」があります。
白鳥伝説とは、『古事記』に記載された次のような物語です。
武勇に優れたヤマトタケルは、国内平定の連戦の果てに、能煩野(のぼの、現在の三重県亀山市能褒野と推定)で病に倒れ、そのまま死去したのです。ところがヤマトタケルは、姿を白鳥に変えて、天に向かって飛び去ったといいます。彼を慕う人々は、泣き泣き白鳥を追いかけたのです。ようやく尋ねあてたときには、白鳥は河内の国の志幾に降りていました。このため、仲哀帝はこの地を、父ヤマトタケルの鎮魂の聖地として御陵を造り、濠には白鳥を放し飼いにしたとあります。
この幻想的な物語に登場する白鳥と、城山古墳から出土した水鳥形埴輪の関係を追及する作業は、とても興味深いことに思います。
ところで城山古墳から出土した、水鳥形埴輪のモデルがハクチョウか、という基本的な問題を見過ごしていることに気がつきました。この問題は簡単そうにみえて、なかなか厄介な問題だったのです。この埴輪のモデルがガンカモ科の水鳥であることは、誰しも異存のないところなのです。ガンカモ科の水鳥には、最も大型のオオハクチョウから最も小型のマガモまで10種類の水鳥がいるのです。
あれこれ思いめぐらせていても、らちがあかないので、鳥類の専門家に見てもらうことにしました。大阪市立大学理学部の山岸良二助教授を訪ねることにしました。いろいろな角度から撮影した、水鳥形埴輪の写真を、先生は慎重に観察されていました。「モデルは何でしょうか」せっかちに、わたしが切り出してしまいました。「ガンカモ科の何かやね」心の中で叫びました。「そんなん分かっとる。問題はその先や」いろいろなやり取りがありましたが、要するに先生の説明では、埴輪の形の特徴から種類を特定することは難しいということだったのです。
わたしはとっておきの質問をしました。「この埴輪の大きさは、コハクチョウの体の大きさとほぼ同じやないでしょうか」先生は「そうね、そうですね」わたしはかたずを呑んで、次の言葉を待ちました。「そうかもしれませんけど、断言はできないですね」先生の懇切丁寧な説明にお礼をして、大学を去りました。
水鳥形埴輪のモデルを、その形からハクチョウと決めることはできないけれど、大きさからすると、コハクチョウと推定することが可能だ、ということが分かったと、手前勝手に解釈して、満足しました。

写真:三体の水鳥形埴輪

『広報ふじいでら』第286号 1993年3月号より

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