頂上の大石(No.23)

更新日:2016年10月07日

空から見た城山古墳

村人たちの目は、点になっていました。城山のてっぺんで大石の掘り上げ作業にかかって2日目の昼前でした。村人のいく人かはこの仕事に取りかかる前、古老のAじいさんが「城山のてっぺんには偉いお侍の墓があるよって、むげに掘るとたたりがあるぞ」といった脅かしとも冗談ともつかない話を頭に思い浮かべていたのです。
滑車でつり上げかけた大石は、長方体で長さ3メートル、幅1メートル、厚さ30センチもありました。大石の下は空間になっていて、最初に内部をのぞいた村人がやや間をおいて、「わっ!」とすっとんきょうな叫び声を発しました。
「中がまっ赤や」ほかの村人も最初の人を押しのけるように、すき間をのぞき込みました。暗やみに慣れてくると、内部の鮮やかな朱色が目に飛び込んできたのです。
「なんや、これは」村人たちは、ただならぬ様子に困惑しました。だれ一人こんなものは見たことも聞いたこともありません。「そうや、Aじいさんに来てもらお」リーダー格のBさんが言いました。
一番年少で早足自慢のC君がAじいさんを呼びに行くことになりました。ゴムまりのように城山を駆け下りたC君は、30分ほどたってAじいさんをつれて城山のてっぺんに戻ってきました。Aじいさんは70を過ぎていたので、城山のてっぺんに着くなりへたり込んでしまいました。Aじいさんの呼吸が整うのも待っていられず、村人たちはAじいさんの両わきを抱えて、大石のすき間のところへ運んでいきました。
すき間を前にAじいさんには、少し得意げになっている様子が見えました。中が朱色に染まっていることは、ここに来る道すがらC君から聞いていました。城山のてっぺんには偉いお侍の墓があるぞといった自分の予想がずばり当たったと思ったのです。不安げに見守る村人たちに余裕のいちべつを加え、Aじいさんはおもむろに中をのぞき込みました。
驚きの声だけは皆の手前なんとかこらえましたが、顔を上げたAじいさんにさっきの余裕の表情はありませんでした。地面に伏せるようにしてお経を唱えだしたAじいさんを見て、村人たちは思わず吹き出してしまいました。「ばかたれ、おまえら、そこにつっ立とらんで、お経あげんかい」
お経を唱えながらBさんは思いました。村一番の物知り博士を自他共に認めるAじいさんにも、これが何か分からなかった、そう考えると気分が妙に落ち着いてきたのです。

写真:空から見た城山古墳

『広報ふじいでら』第273号 1992年2月号より

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