土師の里8号墳の構造と副葬品 (No.146)

更新日:2013年12月19日

拡張区からは土師の里8号墳の中央の埋葬施設が見つかりました。さらにその南側にもう一つの円筒棺が見つかり、土師の里8号墳には合計3基の埋葬施設がつくられていたことが知られたのです。
中央施設は、東西の長さ3・6メートル、南北の幅1メートルの葉巻のような形の落ち込みとして見つかりました。墓穴を掘って埋め戻した部分と人手が加わっていない部分との土の色や質が明らかに違っていたことから分かったのです。この段階では墓穴の中にどういった棺があり、どのような副葬品があるのか見当がつきませんでした。
いよいよ墓穴の中の発掘に取り掛かります。土質を観察するアゼを残して掘り進めました。25センメートルチほど掘ったところで、黄色っぽい粘土に出くわしました。この粘土は墓穴全体に広がっているようなので、その形を追いかけるように掘っていきました。粘土面の全体は、棺をくるむような、そう、太ったイモムシのような形をしていたのです。また、その粘土面上の4箇所に鉄製品が置かれていることも分かったのです。それらは赤錆におおわれていましたが、鉄鏃(てつぞく)8本、鉄鎌、鉄鋤先(すきさき)、鉄斧であることが分かりました。
さらに、粘土面はその中央が土圧で棺の中に陥没していて、その断面に円筒埴輪がのぞいていました。したがって、このお墓は、円筒埴輪を棺にし、これを粘土で覆う粘土槨(かく)構造のお墓であることが理解できたのです。
粘土槨は古墳時代の前半期の中・小型古墳によく見られ、棺を粘土でくるんで密封する葬法なのです。たいていの場合、棺は木棺なのですが、土師の里8号墳では珍しく円筒棺だったのです。
棺内の発掘は、まず陥没穴の土を掘り上げることから始めました。この陥没穴は過去の乱掘によるものではなく、自然にできたものだと考えていましたので、棺内が元の状態を保っていることへの期待が高まってきました。
棺内は陥没穴の左右に空洞が残されていて保存状態が良いことをうかがわせました。また、棺は2本の特製円筒形埴輪をつないで身とし、両端を料理に使うボール形をした特製埴輪でふさいでいることも分かったのです。西側の空洞部には何も入っていないことが見てとれたのですが、東側は埴輪の破片や赤錆の浮いた鉄製品が埋っていることが分かりました。埋葬時の状態をイメージしていたのですが、意外にも雑然とした姿だったのです。
この雑然とした姿は、中央の陥没時に埴輪片が飛散したことと、その後に棺内の空洞を住み処にした小動物、おそらくネズミの仕業だろうと推測しました。
埋葬後に入ったと思われる埴輪片を取り除いていくと、長方形の埴輪片を枕とし、両わきに刀と剣を添えていることが分かりました。また、少量だったのですが、骨片も採集することができたのです。
こうした発掘結果から、土師の里8号墳の中央施設は、粘土槨でおおわれた円筒棺で、棺外の粘土槨上に鉄鏃8本、鉄鎌・鉄鋤先・鉄斧各1点を、棺内に鉄刀・鉄剣各1点を副葬していたことが分かったのです。
棺内から見つかった骨片は、大阪市立大学医学部解剖学教室の嶋田武男さんに分析をお願いしました。骨片は保存状態が良くないものでしたが、20才未満の若い男性のものだろうというレポートをいただきました。正直言って、少量の骨片のもつ情報にはそれほど大きな期待をかけていませんでした。ところが、土師の里8号墳の主たる被葬者像がはっきりしたのは、望外の喜びでした。(つづく)

写真:土師の里8号墳の中心埋葬施設の粘土槨(左)と粘土除去後(右)
『広報ふじいでら』第396号 2002年5月号より

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