千年の時空を越えて(No.2)
更新日:2013年12月18日
「高島さん、えらい太い丸太が出ましたで」ベテランの作業員のおっちゃんが、高島徹技師(現堺市教育委員会)に少しゆううつそうに報告しました。
おっちゃんのスコップの先には、確かに黄白色の木の一部が顔をのぞかせています。そして、その木がただの自然木ではないことを、彼は素早く見抜いたのです。
「木を傷つけないように掘り広げてください」的確な指示で、三人のおっちゃんたちが手際よく木のまわりの土をはねていきました。
木の露出が進むにつれ、その異様な風体は、調査関係者全員を驚かせました。なんせ、太さが1メートル以上、木の表面は手斧(ちょうな)で丁寧に仕上げられ、両側面にはオノで彫られた穴まで開いていたのですから。
巨大な木製品を前に、彼は考え込んでしまいました。今後の調査の段取りをどうしよう。何よりこの正体はなんや。気を取り直した彼は、田代克巳記念物係長(現帝塚山短期大学教授)に電話を入れました。「係長、えらいもんが出ました。すぐ見に来てください」
昭和53年3月3日のことでした。三ツ塚古墳の濠に掘られた、大阪府教育委員会の1本のトレンチが、今まさに、大修羅の千数百年の眠りを覚ましたのです。
どろんこのトレンチの中で、巨大な木製品に顔をくっつけんばかりに観察を続ける田代係長のかたわらで、高島技師が小声でささやきました。
「何でしょうか」
「乾かさんように気をつけなあかんで」
「違いますねん、何や聞いてますねん」
発掘の生き字引と呼ばれているこの係長でも、すぐに分からんのやな。高島技師はちょっぴり安心して、同時に不安に駆られました。
しばらくして、係長は「これは、前からロープをかけて引っ張るソリみたいなもんやで」と、やや自信げに言いました。
:トレンチ 土層観察のために掘る溝。
『広報ふじいでら』第252号 1990年5号より
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