全貌が明らかに(No.3)

更新日:2013年12月18日

修羅曳きの絵『駿府城築城図屏風』(部分)

調査区の拡張の段取りに、高島技師は走り回りました。土地の所有者への説得、作業員の増員、調査費の工面など、問題は山積みでした。
走りながら、彼は田代係長の言ったことを考えていました。この巨大な木製品がソリだという指摘は、係長の来る前に、すでに作業員のおっちゃんたちからも挙がっていたし、彼もそのように考えていました。だが、あまりの大きさに、口にすることをためらっていたのです。
例のない遺物を前にすると、専門の技師もたちまち素人になることを実感していました。同時に、その意味を順序だてて調べていくことが研究者としての仕事であることも自覚したのです。
作業は順調に進み、3月16日には、巨大な木製品の全容がほぼ明らかになりました。それは、アカガシ類の巨木を利用し、全長約8.8メートル、末端幅1.8メートル、先端から2メートル付近で二またに分かれていたのです。先端部は船のへさきのようにとがり、先端から1メートルのところには両側面に貫通する穴が開けられていました。
再び、田代係長が、大阪城天守閣博物館主任学芸員の渡辺武さんを伴って現地を訪れました。にこやかな係長の顔を見て、高島技師は直感したのです。係長がこの巨大な木製品の正体をつかんできたなと。
渡辺さんは、ひととおり観察した後、この木製品が重量物の運搬具であろうこと、それは、近世の築城風景を描いた絵図に、巨石を運搬して登場してくるソリとよく似ていることから類推されること、そしてそれが「修羅」と呼ばれていたことも教えられたのです。
この巨大な木製品が、予測どおり、ソリである確証を得たのですが、いつごろ作られたものかは、もう一つの大きな課題として残っていました。このころから、説明を求める見学者の数が、日に日に増えていったのです。

写真:修羅曳きの絵『駿府城築城図屏風』(部分)(名古屋市博物館提供)

『広報ふじいでら』第253号 1990年6月号より

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