赤い部屋(No.26)

更新日:2013年12月19日

出土した石棺

7枚の大石のうち、1枚は真ん中あたりで二つ折れになっていました。跳上がった一方は、掘る前から地表に顔を出していて、古くから村人の間では知られていました。
よく見ると、その石は単に折れているだけではなく、本来あるべき位置からずれていました。Bさんは、自分たちより先にこの赤い石壁の部屋をのぞいた者がいたことを直感しました。
折れた石の間からは、赤い部屋の中へかなりの土砂が入っていました。Bさんは折れた大石の引き上げと、流れ込んだ土砂を取り除く作業を、皆に指示しました。
作業段取りを指示するとき、Bさんは昨夜の村役会議の決定事項を、皆に報告しました。本当は今日の作業開始のときに、報告するつもりでいたのですが、皆の熱気につい忘れてしまったのです。
決定事項のその一は、中から出てきたものは、個人的に持ち帰ってはならない。出てきたものが、誰の先祖のものだったか調べ、分からないときは、村が責任をもって保管する。
その二は、現場作業はBさんの指示に従う。勝手な掘り方をしてはならない。
その三は、作業はあくまでボランティアとして行う。したがって無報酬である。
Bさんは話を終えて、作業に戻るように言いました。しばらくして、C君がBさんのところへ来て「HさんとIさんが、エンドウ豆の様子が気になると言って帰りました」と報告しました。村で二番目の怪力で器用なHさんが抜けたのは少々痛手なのですが、まあしようがないことと、あきらめました。
そうこうしているうちに、折れた大石の一つは思いのほか、簡単に動かすことができました。庭石を動かす要領で、3本の棒でやぐらを組み、ロープと滑車を使ったのです。大石はゆっくりだが、確実に外へ運び出すことができました。
石を外した跡には、土砂が入っていましたが、赤く塗られた石壁の一部が、白日のもとにさらされました。陽気に作業に当たっていた村人たちも、このころには口をきく者がめっきり少なくなりました。
Bさんはまだ緊張するのは早いぞ、と心の中で叫びましたが、自分ののどもカラカラなことに気づきました。うっかりしていました。昼飯の時刻はとっくに過ぎていたのです。

写真:出土した石棺(大阪府教育委員会提供)

『広報ふじいでら』第276号 1992年5月号より

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