埴輪の棺(ひつぎ)

左:埴輪を焼いた窯、右:棺に使われた円筒埴輪(土師の里遺跡)

左:埴輪を焼いた窯、右:棺に使われた円筒埴輪(土師の里遺跡)

前回までに埴輪は、もっぱら古墳に立て並べることを目的として作られた器物であるとお話ししました。ところが古墳を飾ること以外にも埴輪が用いられていたことも知られています。これらを大別すると、埴輪が中空であるという性質を利用したものと、単にその破片を利用したものに分けることができます。埴輪が中空であることを実生活の中に応用したものとしては、井戸枠やかまどの煙突に使われた例が知られています。でもこれは、当時の人々にとって一種の廃物利用的な感覚があったものと思われます。さらに廃物利用的な破片の利用例はとりあえずおくとして、前者の例を少し詳しく調べてみたいと思います。
埴輪利用で最もよく知られているものとして埴輪棺が挙げられます。円筒形の埴輪の内部に遺体を納めて埋葬するもので、その類例は全国あちこちで報告されています。しかしその分布図をよくみると、大きな古墳群が形成された地域とほぼ重なることが分かります。また、その地域は、土師氏(はじし)一族を名乗る集団がいた地域とも非常によく符合することも指摘されています。
古市古墳群には、土師の里を中心として土師氏の本拠地が置かれたことが推定されています。土師氏は土木技術に長じた集団として、古墳造りに深く関与したことが知られています。つまり古墳の設計に始まり、工事の施工・監理・葬儀の挙行、さらにその後の維持管理まで一切の業務を土師氏が仕切ったものと考えられるのです。
埴輪作りも土師氏の重要な職務であり、古市古墳群内では埴輪を焼いた窯跡が3箇所から見つかっています。埴輪の棺に葬られた人々は、土師氏との深いつながりをもつか、あるいは土師氏そのものであることが想像されてきます。
一口に埴輪の棺といっても、棺用に特別あつらえした埴輪を使い、鉄剣などの副葬品を入れた立派なお墓から、古墳に使う円筒埴輪を棺に転用し、副葬品を全くもたないものまでバラエティに富んでいます。埴輪棺の資料は、最近の調査によって徐々に増加してきています。今後研究が進めば、古墳造りに活躍した土師氏という氏族の集団編成の原理やその実態を解明する糸口がつかめるかもしれません。

教育広報『萌芽』第4号:平成4年2月号より

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